平成14年度「抑制」に関するアンケート集計結果

報  告

介護療養型医療施設連絡協議会 担当常任理事

中 川 翼

介護療養型医療施設連絡協議会では、平成12年から会員病院を対象に「抑制(身体拘束)」についてのアンケートを行ってきた。このたび、平成14年のアンケートが行われ、その結果がまとまった。そのアンケート集計結果を平成13年、12年の結果と対比し、若干のコメントを加えて報告したい。

対象病院の概要

会員病院は、平成14年7月現在552病院である。今回のアンケートの回答病院数は、341病院(61.8%)、1,091病棟であった(表1)。設問は、病棟ごとに行われた。病棟種別は、療養病床が82.8%と圧倒的に多く(表2)、保険の種別は、医療保険41.6%、介護保険50.0%(表3)であった。職員配置基準では、看護職員6:1が67.9%、介護職員3:1が57.4%、4:1が31.0%と多かった(表4)。

 入院患者の状況は、表5に示す。痴呆の程度は、日常生活自立度の判定で、V27.2%、W21.4%、U16.3%と多かった(表5−1)。特殊治療では、経管栄養18.6%、点滴4.2%、気管切開2.8%、中心静脈栄養1.3%であった(表5−2)。経管栄養のうち、経鼻が10.2%、不明8.1%であった。この不明のほとんど全てが経胃ろうと考えられる。経管の44%は経胃ろうと推定される。対象病棟の平均年齢は、80〜84歳46.9%と最も多く、次いで、75〜79歳24.7%、85〜89歳12.7%と多かった(表5−3)。

A 抑制に関する内容について(表6)

今回平成14年の結果を13年、12年と対比して表6に示す。

(1)徘徊しないように、車椅子(椅子)やベッドに胴や四肢を縛る。(表6−1)
必要ではない72.4%、抑制である94.6%、行っている人数0.3%であった。必要ではない平成13年70.8%、12年65.1%、抑制である平成13年93.5%、12年91.1%であり、14年は共に増加している。また、行っている人数も、平成13年0.4%、12年0.5%であり、14年は減少している。

(2)転倒・転落しないようにベッドに胴や四肢を縛る。(表6−2)
必要ではない74.0%、抑制である95.0%、行っている人数0.2%であった。必要ではない平成13年73.0%、12年68.8%、抑制である13年94.4%、12年93.8%であり、14年は共に増加していた。また、行っている人数は、13年0.3%、12年0.2%とほぼ横ばいであった。

(3)点滴・中心静脈栄養・経管栄養等のチューブを抜かないようにミトン型のような手袋をつける(四肢の自由を奪う工夫や道具を含む)。 (表6−3)
必要ではない28.5%、場合による66.1%、抑制である83.8%、行っている人数1.5%
であった。抑制である平成13年80.0%、12年75.0%であり、14年では増加していた。
必要ではない、場合による、行っている人数は、12年、13年同様であった。

(4)点滴・中心静脈栄養・経管栄養等のチューブを抜かないように上(下)肢を縛る。(表6−4)
必要ではない44.7%、場合による52.9%、抑制である91.6%であった。必要ではない、抑制である共に平成13年、12年に比べ増加していた。行っている人数は0.6%であり、13年の0.7%、12年の0.9%に比べ減少していた。

(5)車椅子(椅子)からずり落ちないように腰ベルト(ひも)をつける。(表6−5)
必要ではない48.6%、場合による46.8%、抑制である81.0%であり、平成13年、12年より増加していた。行っている人数は1.2%と、13年、12年と同様であった。

(6)車椅子(椅子)からずり落ちないようにY字型抑制帯をつける。(表6−6)
必要ではない50.2%、抑制である83.8%、行っている人数1.6%であった。必要ではない平成13年49.3%、12年42.0%、抑制である13年81.0%、12年73.3%であり、共に14年まで増加していた。また、行っている人数は13年1.8%、12年2.3%であり、14年で明らかに減少していた。

(7)車椅子(椅子)から立ち上がらないように腰ベルト(ひも)をつける。(表6−7)
必要ではない61.8%、抑制である90.8%であり、平成12年より増加、13年と同様であった。行っている人数は0.3%であり、13年の0.4%、12年の0.5%に比べて減少していた。

(8)車椅子(椅子)から立ち上がらないようにY字型抑制帯をつける。(表6−8)
必要ではない60.8%、抑制である91.8%であり、平成13年と同様、12年より共に増加していた。行っている人数は0.6%であり、13年の0.7%、12年の0.8%に比べ減少していた。

(9)車椅子からずり落ちないように車椅子テーブルをつける。(表6−9)
必要ではない平成14年51.7%、13年55.1%、12年52.8%と14年でむしろ減少傾向にあった。しかし、抑制であるという認識は、14年77.6%、13年71.4%、12年64.6%と増加していた。行っている人数は12〜14年0.7%と全く同じであった。

(10)車椅子から立ち上がらないように車椅子テーブルをつける。(表6−10)
(9)と同様で必要ではないは58.9%と13年、12年に比べ減少していた。しかし抑制であるという認識は86.4%と13年、12年に比べ増加していた。行っている人数は12〜14年0.3%と全く同じであった。

(11)脱衣・おむつはずしのある人に介護衣(つなぎ)を着せる。(表6−11)
必要ではない14年54.3%、13年52.0%、12年42.5%、抑制である14年86.3%、13年82.3%、12年75.4%と共に増加していた。行っている人数も、14年1.6%、13年
1.9%、12年2.6%と明らかに減少してきている。

(12)ベッド柵を2個使用し、取り外しができないように固定する。あるいは高いベッド柵をつける。(表6−12)
必要である14年4.4%、13年8.1%、12年12.3%と減少してきているが、場合によるも14年58.6%、13年50.9%、12年50.0%と増加している。抑制である14年75.9%、13年69.9%、12年60.4%と増加している。行っている人数は14年2.8%、13年3.9%、12年5.0%と明らかに減少している。

(13)ベッド柵を4本つける。(表6−13)
必要である14年7.1%、13年12.1%、12年15.2%と明らかに減少しているが、場合によるも14年73.6%、13年64.6%、12年64.8%と増加している。抑制であるという認識は14年66.4%、13年60.8%、12年50.3%と明らかに増加している。しかしながら、行っている人数は14年11.3%、13年10.7%、12年10.4%とこの3年間では横ばいでやや増加傾向にあった。

(14)必要以上(食事もできなくなる程)の眠気や脱力、精神作用を減退させる向精神薬
の使用。(表6−14)

必要である14年0.2%、13年0.2%、12年0.4%と減少し、抑制であるは、14年90.3%、13年87.6%、12年80.7%と増加している。行っている人数は0.1%と13年と同じであり12年より減少していた。

(15)鍵のかかる部屋(病室)に患者さんを閉じ込めること。(表6−15)
必要ではない14年80.0%、13年77.6%、12年73.3%と増加、抑制であるは14年93.3%、13年91.5、12年87.1%と増加している。行っている人数は、12〜14年で0.1%と同じであった。

(16)病棟への出入りに制限を加えること。(病棟に通じるドア、エレベータの鍵、テンキ
ーの暗証番号による操作等)(表6−16)

  必要である14年7.5%、13年11.0%、12年12.4%と減少しているが、場合によるは14年51.2%、13年48.3%、12年44.6%と増加していた。抑制であるは14年70.9%、13年66.7%、12年59.9と増加していた。行っている人数は14年19.6%、13年20.5%、12年18.2%とほぼ同様であった。

(17)日々のケアの中で、スタッフの言葉使いについて:食事時間などで、早く食べなさ
い等の命令口調を用いたり、指示をすること。(表6−17)

必要ではない14年85.4%、13年82.8%とやや増加、抑制である14年68.5%、13年60.7%と減少していた。このような行為がかなり多いと回答した病棟は、14年5.1%、13年8.9%であり減少していた。


B 身体拘束ゼロへの推進について

(1)厚生労働省が作成した「身体拘束ゼロへの手引き」をご存知ですか。(表7−1)
はい、と回答した病棟は97.2%、はい、と答えた方のうち、多くの人が読んでいる46.3%、少数だが読んでいる51.1%であった。かなり普及してきていることがうかがわれる。

(2)身体拘束禁止規定の下、身体拘束ゼロ作戦が都道府県で開催されていますか。
(表7−2)

  開催されているが70.4%であった。

(3)現在、都道府県から貴病院に対し、身体拘束禁止に関してなんらかの連絡があります
か。(表7−3)

はい、が70.3%であった。はい、と答えた方の内容については、研修会の開催案内
69.6%、調査の依頼54.4%、シンポジウムの開催案内37.2%、報告書の配布31.6%
であった。

C 今回の調査集計結果に対する感想

(1)はじめに
介護療養型医療施設連絡協議会の会員対象に3年間「抑制」についてのアンケートを実施していることは、とても意義深いことと考えている。真剣に回答していただいた会員施設のとくに病棟の担当師長(婦長)さんに厚くお礼申し上げたい。回答率は平成12年65.3%、13年61.6%、今回の14年61.8%であった。今後もより多くの会員病院より回答が得られることを期待している。

(2)対象病院概要中、経管栄養について
この3年間で点滴、中心静脈栄養はやや減少傾向、気管切開はやや増加傾向であった。それに比べ、経管栄養は、12年14.1%、13年16.1%、14年18.6%と毎年増加している。さらに、このうち経鼻と経胃ろうの比率は12年9.4%と4.6%、13年9.6%と6.2%、そして今回14年は10.2%と8.1%となっている。つまり経管栄養の44%は経胃ろうになってきているのが現状である。

(3)「抑制」のアンケート集計結果について

徘徊しないように、転倒・転落しないように、あるいは点滴・中心静脈栄養・経管栄養等のチューブを抜かないようにベッドに縛る行為は元々絶対数は少ないが、徐々に減少している。これに対して、これら医療行為の際にミトン型手袋をつけることは、行っている人数が平成12年1.4%、13年1.3%、14年1.5%と横ばいである。今後の工夫が望まれる。また、車椅子(椅子)からずり落ちないように、あるいは立ち上がらないように腰ベルト(ひも)や、Y字型抑制帯をつけることも徐々に減少している。しかし、この際、車椅子テーブルをつけることについては、行っている人数はこの3年間で全く変わっていない。今後の検討が望まれる。

脱衣・おむつはずしのある人に介護衣(つなぎ)を着せることを行っている人数は、平成12年2.6%、13年1.9%、今回14年は1.6%と年々減少している。継続的な減少を期待したい。

次にベッド柵についてである。ベッド柵を2個使用し固定、あるいは高いベッド柵をつけるについても年々減少している。しかし、ベッド柵を4本つけることについては、行っている人数12年10.4%、13年10.7%、今回14年11.3%と減少していない。むしろ微増傾向すらある。私どもの経験でもベッド柵を4本つけないことと、患者さんの安全とは種々の工夫で両立できると考えている。低床ベッドの導入など全病院的な取り組みが望まれる。

病棟の出入りに制限を加えることについては、行っている病棟が12〜14年で約20%ある。この件については、私自身にコメントする力はない。

身体拘束を克服できた病院では、いわゆる「言葉」や「態度」による抑制の問題に取り組みつつある。これは「接遇」にも相通じる大切な問題である。

都道府県で行っている身体拘束ゼロ作戦は、都道府県によりまだ温度差があるようである。しかし、かなり浸透してきているように思える。私がゼロ作戦の座長を仰せつかっている北海道では、平成14年度合計18回のいろいろなタイプの研修会を札幌、函館、旭川、帯広で計画し、すでに何回か行っている。各地域での広がりが期待される。

        集計結果(PDF形式208Kb)