終末期医療に関する調査報告 機関誌LTC第40号より

日本療養病床協会副会長、医療法人渓仁会定山渓病院院長 中 川 翼

昨年、厚生労働省医政局に設置された「終末期医療に関する調査等検討会」では、5年前に実施された「終末期医療に関する調査」の調査用紙を、その骨格を尊重しつつ、かなり手直しした。その作業に私も委員の1人として参画し、高齢者医療の終末期に関する設問を調査用紙に加えてもらうなど、かなり積極的に関わってきた。

厚労省が今春に実施した一般国民と医師、看護職、介護職対象の調査は現在集計中である。当会でも5月の常任理事会で、この調査用紙を用い、会員病院を対象に終末期医療に関する意識調査を行ってはどうかとの提案が即日承認され、厚労省の了承を得た上で6月に調査を実施した。

このほど調査の結果がまとまったので以下に報告したい。あわせて、今回ご協力いただいた方々にはこの誌面を借りて深く感謝したい。

調査結果の概況
調査対象 日本療養病床協会(調査時 介護療養型医療施設連絡協議会)会員病院558病院
回答病院数 358病院(回収率64.2%)
調査方法 原則として1病院あたり任意に選んだ医師3名、看護職員10名、介護職員10名に調査用紙を配布し回答を依頼。
回答者数 7,874名(医師926名、看護職員3,470名、介護職員3,478名)

「自分が患者なら単なる延命治療を希望しない」が9割

○終末期医療に関する関心は、職種に関わらず93%と非常に高かった(問1)。
○自分の余命が1か月程度あるいは6か月以内と判定された場合、心肺蘇生や単なる延命治療を希望しないと答えた医療従事者は、約9割に達した(問3−1、3−2)。
○患者が治る見込みのない病気に罹患した場合、その病名や病気の見通しについてまずだれに説明するかとの問いに(問4)に対し、「患者本人」と回答した医師は2%、看護職は6%、介護職4%と、いずれも非常に低かった。
一方、「患者本人」の状況を見て患者に説明するかどうかを判断する(した方がよい)」と答えた割合は、医師39%、看護職60%、介護職44%。
また、「家族に説明する(した方がよい)」は、医師58%、看護職29%、介護職47%と、いずれも「患者本人」に比べ高かったが、医師、看護職員、介護職員の職種別にばらつきが見られた。
○「病名や病気の見通しについて患者や家族に納得のいく説明ができていると考えているか」との設問(問5)については、「できている」「ある程度できている」と医師の89%が回答したのに対し、看護・介護職では66%にとどまった。
「できていない」は、医師の3%、看護職の24%、介護職13%に見られ、ここでも職種によるばらつきが出た。
○このほか、治療方針を決定する際の判断に関する設問(問6)でも、職種によりばらつきが見られた。
「患者本人の意見を聞く」割合は、医師6%、看護職12%、介護職11%といずれも低かったが、「患者本人の状況を見て誰にするか判断する(した方がよい)」と答えた医師は54%、看護職は70%、介護職は61%。
また、「家族の意見を聞く(聞いた方がよい)」との回答は、医師40%、看護職16%、介護職24%であった。
○「あなたの担当している患者が痛みを伴い、しかも治る見込みがなく死期が迫っている(6か月程度あるいはそれより短い時間を想定した)場合、単なる延命だけのための医療についてどう考えるか」との設問(問7)では、「単なる延命治療はやめたほうがよい」が62%、「延命治療はやめるべき」が13%と、「単なる延命でも続けられるべき」の10%を大きく上回った。
「やめるべき」との回答は、とくに医師に多く見られた。

◆「治る見込みがない場合の療養先3職種とも「自宅」がトップ

○世界保健機構(WHO)作成のWHO方式がん疼痛治療法については、「知らない」が、医師で28%、看護職60%、介護職では74%を占め、3職種でばらつきが見られた(問9−1)。
同様に、「モルヒネの使用にあたって有効性と副作用について患者にわかりやすく説明できるか」の説明(問9−2)に「説明できない」と答えた比率は、医師5%、看護職20%に対し、介護職では67%と多かった。職種による差が見られた。
○「あなた自身が、持続的植物状態で治る見込みがないと判断された場合、単なる延命治療についてどう考えるか」という設問(問10)で「単なる延命治療でも続けられるべき」との回答は、6%に過ぎなかった。
これに対し、「あなたの担当している患者が持続的植物状態で治る見込みがない場合、単なる延命治療でも続けられるべき」との回答は13%と、自分自身の場合の2倍に達した。
○あなた自身が高齢になり、脳血管障害や痴呆等によって日常生活が困難となり、さらに治る見込みのない疾患に侵されたと診断された場合、どこで最期まで療養したいと思うか」の設問(問12)に対し、「自宅」と答えた割合が医師(46%)、看護職(39%)、介護職(36%)とも最も高く、ついで「介護療養型医療施設、又は長期療養を目的とした病院」との回答が、3職種ともに約30%あった。
「介護老人福祉施設」は、医師5%、看護職14%、介護職17%だった。
○「あなたの担当している患者が高齢になり、脳血管障害や痴呆などによって日常生活が困難であり、さらに治る見込みのない状態になった場合、どこで最期まで療養することを薦めるか」の設問(問13)に対しては、「介護療養型医療施設、又は長期療養を目的とした病院」との回答が3職種とも約45%と半数近くを占めた。
ついで「自宅」が医師25%、看護職21%、介護職14%、さらに「介護老人福祉施設」が医師7%、看護職10%、介護職13%と続いた。自分自身の場合よりも「自宅」と答えた割合は低かった。

◆「死期が近い時の治療方針についての意思 書面でもOKが7割」

○治る見込みがなく、死期が近いときには単なる延命治療を拒否することをあらかじめ書面に記しておき、がんの末期などで実際にそのような状態になり、本人の意思が直接確かめられないときはその書面に従って治療方針を決定する「リビングウィル」という考え方について、「賛成する」が7割強を占めた(問14)。
○「書面による本人による意思表示という方法について、わが国ではどのように扱われるのが適切と考えるか」という設問(問14-1 補門1)に対し、「医師が家族と相談の上その希望を尊重し治療方針を決定する」が59%、ついで「そのような書面が有効であるという法律を決めるべき」が39%であった。
○死期が近い時の治療方針についての意思について、病院や介護施設(老人ホーム)が「書面により患者の意思を尋ねる」という考え方についても、「賛成」が73%を占めた(問14-1 補門2)。
○書面に残す時期について」は、「入院する以前」(28%)、「入院後」(16%)、「時期はいつでもかまわない」(21%)とほぼ均等に分かれた(問14-1 補門3)。
○「このような書面についてあなた自身はその内容を尊重しますか」との設問(問14-2)については、医師では63%が「尊重する」と答えた一方、「尊重せざるを得ない」(15%)、「その時の状況による」(16%)との回答も見られた。
一方、「このような書面を見せれば、医師はその内容を尊重してくれると思うか」との看護・介護職への問いに対しては、32%が「そう思う」、「そうせざるを得ないと思う」と回答した。しかし、「そのときの状況による」との回答が55%あった。
○事前に本人の意思確認ができなかった患者の場合、家族や後見人が延命治療を拒否したら、それを本人の意思の代わりとして治療方針などを決定するればよいという「代理人による意思表示」という考え方についての設問(問14-3)は、「それでよいと思う」、「そうせざるを得ないと思う」が65%あった。
また、代理による意思表示のとき、「意思表示する人は誰が適当か」(問14-3 補門4)については、「配偶者」との回答が66%と圧倒的に多く、「子ども」は12%と少なかった。
○「単なる延命治療を続けるべきか中止すべきか、という問題について、医師と患者の間で十分な話し合いが行われていると思うか」(問15)に対しては、「行われていると思う」はわずか16%にすぎず、「不十分と思う」、「行われていると思わない」との回答が合わせて46%と半数近くに達した。
○終末期医療の治療方針について、「医師や看護・介護職等の間に意見の相違が起こったことがあるか」(問16)については、44%の医師、46%の看護職、18%の介護職が「ある」と答えた。
一方、意見の相違は「ない」と答えた医師は51%、看護職52%、介護職では77%あった。この結果は、チーム医療の重要性を示すと同時に、終末期医療の難しさを示唆しているといえよう。