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日本慢性期医療協会 会長就任にあたって  平成20年4月1日
 

日本慢性期医療協会  
会長 武久洋三  

 

 

 本年4月1日より会長として、当会の新しい時代への舵取りを任されることになり、身の引き締まる思いである。会長就任にあたり、これまでの経緯から当会の進むべき道を考えてみたい。

 それにしても、急性期病院の平均在院日数を約20日から半分の10日に短縮するならば、急性期治療を受け継ぐ慢性期病床は2倍必要になると考えるべきではないか。然るに、療養病床再編と称した療養病床つぶしはまさに凄まじいものがある。どうしてそこまでして療養病床を悪者視するのか。立ち止まってゆっくり考えてみたところ、霧が晴れるように見えてきたことがある。

 小泉政権時代の経済財政諮問会議により、聖域なき改革として、医療についてもGDPに見合った診療報酬にしようとする要求があり、厚生労働省は数々の指摘を受けていたようだ。それに対し、尾辻厚生労働大臣を先頭にその理不尽な要求をいかにかわすかに注力した結果、医療費適正化として二つの約束をしたという。それが、平均在院日数の短縮と特定健診である。この二つを提示したため、診療報酬のキップ制と混合診療をまぬがれたそうだ。

 わが国の平均在院日数は諸外国と比べても明らかに長く、具体的な指標として経済界等を理解させるには、その短縮が適当だったかもしれない。入院期間の長い病床をなくすことで、数字的には大幅に短縮できることは明々白々である。療養病床は、長期の慢性期患者の入院を主な使命としているわけであるから、平均在院日数が300日を超える病院も多く、この部分が病院でなくなれば劇的に平均在院日数を短縮させることができる。そうすれば経済財政諮問会議に申し訳が立つと考えたわけであろう。

 かくして療養病床の半分は、社会的入院だとか、包括点数制度の中で充分な治療もしていない、とかの理由付け作戦が行われ、何となく周囲を納得させ、日本療養病床協会も骨抜きにされてしまったことは、近々の事実として会員諸氏の見てきたとおりである。療養病床再編の元々の動機が不純であり、その理由もこじつけであるため、制度改革もいびつなものになるのは当然である。

 そして、全国の中で療養病床の多いところは、蛇蝎の如く罵られ、地域ケア計画の美名のもとに削減を強要されている。しかし、慢性期高齢障害者の数自体は、各都道府県によって人口10万人当りで、何倍もの差があろうはずもない。現在、高知県は東北地方の県の10倍近くも療養病床があるが、実は、療養病床の少ない県は、慢性期高齢者が一般病院に長期入院しているのが実態だ。入院90日以上の特定高齢者の除外規定の二大要因である肢体不自由と意識障害がそれにあたる。それらの患者が医療療養病床に入院した場合、医療区分1に該当するにも係わらず、一般病床では平均在院日数に算定されることなく、何年でも入院できる仕組みなのである。療養病床の多い県は、むしろ療養環境の改善に熱心だったところにほかならない。そのことの不公平さ、理不尽さを訴えても一顧だにされない。

 ハハーンなるほど!一般病床の特定患者除外規定該当患者が約10万人近くいるにもかかわらず、今ここでシャッフルして、これらの患者をあぶり出してくることは、平均在院日数の短縮という大命題にとっては、まことに都合の悪い話となる。介護療養型医療施設を平成23年度末までに廃止し、介護保険施設へと転換させ、医療療養を極端に減らす一大政策が、平成17年12月にいきなり出現した訳が会員の皆様にもおわかりになったであろう。しかし、今頃になって気がついてももう遅い。ここまで来てその流れを止めるのは難しいといえよう。

 このような経緯からなされた一連の改革は、唐突に、そして強迫的に行われたと思ってよい。私はその場にはいなかったものの、当時の木下前会長のご苦労は察するに余りある。

 医療費を適正化するためには、在宅療養中の方や介護関連施設入所者の慢性期高齢者の病状が悪化したときに、急性期病院ではなく、療養病床で治療することにすれば、入院費は3分の1あるいは4分の1になるのではないか。高度急性期病院でないと治療できない疾病ならばともかく、脱水、低栄養、嚥下性肺炎、褥瘡悪化などについては、むしろ療養病床の方が適切な医療が提供できる。ともかくは、一般病床に長期入院している慢性期高齢患者をなくすることが先決ではないか。療養病床だけを悪者視する時代は終った。

 しかし、世の中には急性期医療だけが必要な医療であり、慢性期医療なんてどうでもよいと思っている人も多いようだ。本当にそうであろうか。たかだか10日や20日の急性期治療だけで、高齢者が地域復帰できると思っているのであろうか。急性期治療を受け継ぐ慢性期医療が適切でなければ、彼等はQOLを回復して地域に戻ることは到底できないであろう。

 平成20年3月13日に開催した新役員での理事会および第31回通常総会において、当会の名称を日本慢性期医療協会と改称することを次期7月総会に諮ることが満場一致で承認された。慢性期医療の重要性と必要性を第一義に主張している医療団体は当会の他にはない。我々は、決して圧力団体ではない。誠実に、そして適正に慢性期医療の質の向上に取り組み、その重要性と必要性を真摯に国民に訴えていくつもりである。まじめにこつこつとデータを積み重ね、関係者各位および国民の皆様にわかっていただく努力を惜しんではならない。
 

 
 

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