日本慢性期医療協会トップページ
日本療養病床協会 介護保険委員会 【声明文】 平成20年5月
  介護療養型医療施設全廃問題に対する日本療養病床協会介護保険委員会の見解 
 

日本療養病床協会 会長 武久洋三
介護保険委員会委員長 清水紘

  1)情報操作の問題
 

介護保険の中の医療施設である介護療養型医療施設は、先の医療制度改革によって平成23年度末をもって全て廃止され、介護施設等に転換することが決定されました。しかし、この立法過程で使用された基本的な情報は、意図的に操作され恣意的に流用されたものです。例えば、医師による「指示の見直し」の頻度というアンケート調査項目への回答が、医師による「直接医療提供頻度」への回答にすりかえられ、「医療は不要である」根拠とされました。全廃の理論的根拠となった「医療区分1」の概念も、厚生労働省は「入院医療の必要がない」と同義だと説明しましたが、当のその概念を作成した中医協の分科会が、それは厚生労働省の「政策的判断」で、「分科会のエビデンスが違う形で利用された」と主張しています。私たちは、国民のいのちのあり方に直接かつ重大な影響をもつ政策が、このようなすりかえや誤解を根拠としたプロセスで決定されたことに痛憤の思いを抱いています。

  2)膨大な医療・介護難民の発生、現場の姥捨て山化を懸念する
 

介護療養型医療施設全廃で、医療・介護難民が全国で53,000人発生します。また、介護療養型医療施設の主な転換先とされた受け皿施設の報酬は20%近く減額され、介護療養型医療施設は廃止の道か、あるいは、医師、看護職、介護職、リハスタッフ等大幅削減の道を選ばざるを得ません。もし、人手を削減すれば、手に余る患者を退院させ、家庭が介護地獄化する。あるいは退院はさせないが、病状回復は元より、現状を維持することもできず、認知症で手がかかればベッドに縛りつけ、容態が悪化すれば救急車で他の病院に搬送する。文明国家日本にこのような「姥捨て山」が出現する事態となります。

  3)要医療・重介護領域のニーズに対応しているのは介護療養型医療施設のみ
 

疾病をもつ「重介護」高齢者の医療ニーズ、状態の悪化、急変、死亡のリスクは、「軽介護」高齢者に比して高いことは常識です。一見「安定」しているように見えても体力に余力がなく、感染症をはじめさまざまな疾病を合併しやすい状態にあり、早期の段階で治療しなければすぐに重篤化します。重介護高齢者にはケアも医療と「不可分一体」で提供しなければなりません。例えば、重度の嚥下障害がある患者への食事のケアは、窒息や誤嚥、それを原因とする肺炎の危険と常に隣り合わせであり、朝、昼、晩、医師が居て初めて安心して実施することが出来ます。このように一定の病状を有し、重度の要介護状態にある高齢者にとって、疾病の「回復」と「安定・維持」、「医療」と「ケア」は別のものではありません。「治療」→「回復」だけを評価する医療保険の仕組みの中では、このような患者を適切に処遇することはできません。疾病の安定や状態の維持、医療とケアの相乗効果を評価する領域が必要であり、まさに、それを実現しているのが介護療型医療施設なのです。

  4)私たちは、介護療養型医療施設を全廃することに反対し政策の中止を求めます。
 

私たちは、介護療養型医療施設を全廃することに断固として反対し、もし、政策が強行されるのであれば慢性期医療の現場にあるものとして、責任と誇りにかけて阻止しなければならないと考えます。そもそも、この全廃は、医療費削減ありきだけで始まったものであり、その手続きも上述のように不適切、国民不在であり政策全般が机上の空論です。この介護療養型医療施設全廃政策は、国民に不幸をもたらし現場を確実に崩壊させます。私たちは、まず、この政策を中止・凍結し、費用負担の問題も含めて国民と議論を行い、それに従うことを求めます。また、入院の是正を行うのが目的というのであれば、介護療養型医療施設を廃止するのではなく、患者ひとりひとりの状態とニーズを正確に評価してから実施するべきであることを主張します。



Copyright 2004 JAPAN ASSOCIATION OF LONG TERM CARE HOSPITALS 
日本慢性期医療協会 〒162-0067 東京都新宿区富久町11-5 シャトレ市ヶ谷2階 
TEL.03-3355-3120 FAX.03-3355-3122