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簡易懸濁法に関する看護職及び薬剤師の意識調査報告   集計結果(PDF形式)
 

日本療養病床協会薬剤研究会 賀勢泰子(鳴門山上病院診療協力部長)

高齢者の長期療養施設では、経管栄養投与の患者様の比率も高く、その与薬に際しては錠剤・カプセル剤を粉砕または脱カプセルする「粉砕法」が取られてきました。「粉砕法」による投薬では、品質の変化、投与量の減少、薬剤の制限など様々な問題点があり、医師・薬剤師・看護師はその対応に追われている状況でしたが、近年、経管栄養患者への効果的な与薬法として、錠剤・カプセル剤をそのまま微温湯に溶解する「簡易懸濁法」が注目されています。

当薬剤研究会でも、「簡易懸濁法」の導入および実践に関する講演や実技セミナーを開催し、その普及に努めています。平成17年度日本療養病床協会全国研究会薬剤部会のシンポジウムにおいても、「簡易懸濁法」を取り上げ、効果的な実践方法を医師・看護師・薬剤師などのチームで討論し情報共有を図る予定です。この企画をより有意義なものにするため、プレ調査として、「簡易懸濁法に関する意識調査」を行いましたので、アンケート集計結果の概略を報告致します。

【調査概要】
調査対象は、会員633病院に勤務する看護職および薬剤師とし、調査時期は、平成17年5月としました。アンケートは、各会員施設へ郵送し、回答はファクシミリで回収しました。

【アンケート調査項目】
アンケート用紙は、看護師版と、薬剤師版の2種類を作成し、病棟種別、入院患者数、経管栄養患者数の施設基礎情報、および簡易懸濁法の認知度、簡易懸濁法の実施状況、簡易懸濁法の効果・問題点、簡易懸濁法導入時の問題点、粉砕法の問題点を選択項目から抽出または自由記載する方法で質問しました。
また、実技セミナーへの関心度や薬剤研究会へのご意見等も併せて質問項目に加えました。

【回収状況】
送付した633会員施設のうち、230施設(36.3%)の看護師から535件、218施設(34.4%)の薬剤師から231件の回答が寄せられました。
回答病棟の内訳は、介護保険療養病棟40.4%、医療療養病棟27.7%、特殊疾患療養病棟13.3%、回復期リハビリテーション病棟5.6%の構成となっています。
入院患者100名あたりの経管栄養患者数の平均は、30人未満23.4%をピークに、20人未満22.1%、40人未満15.5%の状況で、50人以上の施設も8.8%みられました。

【集計結果】

(1)簡易懸濁法の認知度について
「簡易懸濁法」の認知度は、看護師で67.3%、薬剤師89.6%と薬剤師に高い傾向でした。簡易懸濁法の効果についての評価は、調剤・溶解手技を省力化できると回答した看護師は64.9%に対し、薬剤師は87.8%でした。処方の変更時に薬剤の廃棄量・廃棄に伴う経費が減少すると効果を評価したのは薬剤師67.8%に対し、看護師15.5%と相違がありました。

(2)簡易懸濁法の実施について
経管栄養患者への与薬に簡易懸濁法を実施している施設は45.8%、そのうち75.6%の施設が全病棟で実施しており、23.3%の施設は一部の病棟でのみ実施していました。知っているが実施していない施設は、21.5%でした。予想以上に多くの施設で取り入れている事が伺える結果でした。

(3)簡易懸濁法の効果・利点について
病棟種別毎の看護師の評価を平均すると、64.9%が省力化できると回答し、直前まで薬を確認でき安心と回答したのは49.8%、処方変更時の薬剤の廃棄量が減少したと認識したのは15.5%でした。
薬剤師の回答は、全病棟で簡易懸濁法を実施している施設の場合、94.1%が省力化できると回答し、直前まで薬を確認でき安心と回答したのは69.1%、処方変更時の薬剤の廃棄量が減少したと認識したのは73.5%でした。
一方、一部の病棟でのみ実施している場合は、省力化できると回答したのは66.7%、直前まで薬を確認できるので安心と回答したのは47.6%、処方変更時の薬剤の廃棄量が減少したと認識したのは52.4%と全病棟で実施している施設に比較すると効果的と取られている割合は若干低い傾向を示しました。
看護師と薬剤師の意見は、おおむね同様の評価でしたが、薬剤師の評価が高い傾向がみられました。また、処方変更時の廃棄薬剤減少効果については、薬剤師全体で67.8%が減少効果ありと回答しましたが、看護師は15.5%と低い評価で大きな差がみられました。

(4)簡易懸濁法の問題点について
実施にあたっての問題点に関する認識では、開始時に業務の調整が必要と回答した薬剤師は29.4%に対し、看護師は13.1%であり、錠剤の配合変化情報の不足を挙げたのは薬剤師では63.2%に対し、看護師は33.9%でした。実施を検討中と回答した施設の看護師は、実施にあたっての問題点を、錠剤の溶解性情報の不足52.2%、溶解手技に慣れない30.4%、錠剤の配合変化情報の不足27.8%、業務手順を変更しにくい19.1%と回答しました。
一方、薬剤師は、業務手順を変更しにくい51.3%、錠剤の溶解性情報の不足44.4 %、錠剤の配合変化情報の不足33.3%、溶解手技に慣れない29.1%と、評価が分かれる結果で、薬剤師と看護師では、問題点に関する認識項目に差がみられました。

(5)粉砕法の問題点について
また、「粉砕法」での問題点については、溶解しにくいと回答した看護師は73.2%に対して、薬剤師は30.5%で、チューブの閉塞が起きたと回答した看護師60.6%に対し、薬剤師では38.3%であった。また、接触や吸入での健康被害や不安は看護師7.3%に対し、薬剤師では31.2%であった。「粉砕法」についても、看護師と薬剤師の認識に大きく差がみられ、様々な点でチームの連携を密にする必要があると考えられました。

(6)簡易懸濁法の実技セミナー参加について
(7)フリーコメントに記載されたご意見について
回答をよせて戴いた看護師からは107件、薬剤師から120件の貴重なご意見を戴きました。
簡易懸濁法の効果としては、看護師、薬剤師ともに「投与量の確保」「与薬過誤対策」「健康被害への対策」「経済的効果」「チームの連携強化」など、多くの評価はほぼ一致していました。クロスコンタミネーションへの効果を評価する意見は、薬剤師から寄せられました。
簡易懸濁法の問題点としては、看護師、薬剤師ともにほぼ同様の評価で、「溶解後の安定性」「溶解性、チューブの閉塞」「溶解時間」「作業手順変更」への不安を挙げました。薬剤師からは、「後発品の情報不足」を問題点とする意見もありました。
粉砕法の問題点として、「投与量の減少」、「薬効の低下」、「薬剤変更時のロス」、「人件費」など、看護師・薬剤師ともに問題点は一致していましたが、看護師は、「与薬過誤のリスク」「健康被害」を問題点と感じる意見が多く、薬剤師は「薬効の低下」「クロスコンタミネーション」を問題点と感じる意見が多い傾向がありました。

【まとめ】
全国研究会の薬剤部会シンポジウムおよび薬剤研究会ワークショップの開催等の成果として、会員施設の「簡易懸濁法」に対する認識度、実施率は高くなっていることが伺える結果でしたが、いくつかの項目で職能による視点の相違によって、評価や認識が異なる傾向が見られ、様々な情報の整備と充実、チームでの情報共有が今後の課題と考えられる結果でした。
全国研究会では、これらの貴重なご意見を踏まえて、「簡易懸濁法」の効果的な実施について活発な討論を行い、医師、看護師、薬剤師の情報共有を図って参りたいと考えています。

最期になりましたが、今回のアンケートにご協力戴きました多くの看護師、薬剤師ほか関係の皆様方へ心よりお礼申し上げます。
   

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