現在、療養病床は医療保険病床と介護保険病床に分けられ、それぞれの保険制度に基づいて運営・管理されている。しかし、両病床に入院する患者はいずれも高齢の慢性疾患罹患患者である。その軽重の程度はともかく、2000年の介護保険制度発足時に厚生労働省はこの両保険病床それぞれの運営に対する理念や目的を十分明確にはしていない。
従って、現時点にいたるまでこの二つの異なる制度をもとにした療養病床の入院患者には、明らかな入院基準の差は認められていない。そのため、介護療養病床への入院は要介護認定と契約やケアプランなど介護保険制度上の手続きの煩雑さが加わっただけで、実際の入院患者の状態に大きな相違点は想定されないまま運営されてきたことがある程度事実であるといえよう。介護療養病床にも重度の治療が必要な患者も入院しているが、そこでは重症患者に十分適合した報酬にはなっていない。
本来は、主に医療の必要な患者は医療療養病床へ、また、介護が中心となる患者は介護療養病床へ入院することが適当であると思われる。今後の療養病床のあり方として、介護療養病床は医療的監視が必要であるものの、病状が安定し介護が中心となる患者の入院を基本とするべきである。そして、医療療養病床はリハビリテーションの必要度が高く在宅復帰を目指す患者や、亜急性期から慢性期・終末期にいたる、より医療必要度の高い患者の治療を理念とするべきであろう。
医療療養病床の基準について
療養病床に包括制がとられて久しい。包括化された当時の療養病床のおかれていた環境と現在のそれとでは、医療界を取り巻く背景は次のように変化してきている。
1)一般病院の平均在院日数が大幅に短縮されたため、重度の慢性患者、癌 の再発および末期の患者、長期の植物状態の患者、脳血管障害の亜急性 期患者等が一般病院の平均在院日数を押し上げる要因として療養病床に 紹介されるようになった。その結果、一部の患者の治療原資の増大により 包括点数の収支バランスが崩れる傾向にある。
2)地域医療支援病院のカテゴリーが厳しくなったことは、急性期病院での平 均在院日数の短縮化が一層すすむこととなり、療養病床に入院する重症患 者の増加を招いている。
3)平成15年8月で一般病床と療養病床の届出期限が終了した。
4)要介護者の急増により介護保険の入院・入所施設の定員が相対的減少を 来した。そのため、医療療養病床では患者の状態による包括点数の差がな いことから、一部の病床には要介護度・要医療度の低い社会的入院患者が 存在すると考えられる。
5)痴呆高齢者が急増した。老人病院機能評価マニュアル調査の結果からも 専門的対応を要する痴呆高齢者の入院が増加していることが表れている。
6)特殊疾患療養病棟(1・2・加算)や回復期リハ病棟の認可病床数の停滞 は、その適応患者が医療療養病床に少なからず入院することにつながり、 患者の重症化とともに個別リハビリテーションの必要性が高まっている。
かくなる背景のもとに、医療療養病床と介護療養病床の今後の制度的概念の位置付けと、その報酬体系について日本療養病床協会として下記のように考える。
(1)医療度・看護度を考慮した診療報酬の導入の検討。
(2)超重症者入院診療加算、準超重症者入院診療加算は、特殊疾患療養病 棟以外の医療療養病床では高齢者には算定されない。高齢者は治療に困 難を伴うことが多いことに鑑み、医療療養病床も含め高齢重症者加算のあ り方の検討。また、重症変化時には医療需要が高まるため、期間経過6ヶ月 の条件を撤廃。
(3)問題行動のある重度痴呆患者報酬のあり方の検討。
(4)増加する悪性腫瘍患者に対する抗癌剤や麻薬が使用できるような報酬 のあり方の検討。
(5)療養病床は患者100人に対し3名のPTまたはOT、STを必置とする。配 置できない場合の減算も許容するが、基準数以上のリハビリスタッフ(PT・ OT・ST)の個別訓練については、出来高とする。
(6)療養病床における看護・介護職員の配置基準のあり方。
(7)療養病床におけるソーシャルワーカーの配置。
(8)利用者の経済的負担が急激に増大しない配慮。
医療療養病床としては増大する医療需要に応えるべく、医療機能を果たす努力をしている。しかしながら、一部に安易に社会的入院を許容している病床があることも否めず、このような病床は減算を行うべきであると考えるが、実際に医療資源を補充し、患者の要医療度に応えている病床には診療報酬への配慮が求められよう。現在の日本の財務事情の中では医療費の増額は困難であり、総額としては現状維持を継続せざるを得ないとしてもメリハリの利いた制度にするべきである。
医療と介護は本来明確に分けられるものではない。医療保険と介護保険という二つの制度に現実に分けられている現状は是認するが、近い将来には医療ならびに介護療養病床とも介護行為は介護保険を適用し、医療行為は医療保険を適用するといった制度上の改革を検討する必要がある。
介護保険制度による三施設の機能分化は明らかに医療資源の多寡によるものである。医療供給の不足により、医療必要度の高い高齢者が十分な医療が受けられないことは許容されるものではない。特養・老健においても、基準以上の医療スタッフが配置されている場合には、医療の必要性を認識し、適切な医療行為を正しく評価することで機能分化や報酬のあり方を考えなければならないと考える。
機能評価への取り組みについて
機能評価については、日本医療機能評価機構の評価を受審することが現段階では最善と思われるが、病院の規模や機能によっては直ちに評価を受けることが困難な病院もあると考えられる。そこで、日本療養病床協会では「老人病院機能評価マニュアル 新版(老人の専門医療を考える会編・4訂版・2004年12月発行)」を用いた評価をすすめていきたい。この老人病院機能評価マニュアルでの評価方法は自己評価を基本としているが、多職種によるチームで評価である。これまで11年間毎年継続して行われた調査結果から見ても精度の高い調査であり、今後は各病院がその結果を公表することを前提としたい。介護療養型医療施設の第三者評価が実施される時期までは、この自己評価に真剣に取り組むことによって質を高め、また、日本医療機能評価機構の評価受審へ向けた取り組みとしたいと考える。
(2005/1) |